歯髄保存療法とは
歯の神経を残す治療
歯の内側にある「神経(歯髄)」は、歯に栄養を送る機能を有し、痛い・しみるなどの様々な刺激を感知することで、虫歯などから歯を守る役割があります。
神経(歯髄の除去は虫歯の侵食が神経まで達した場合や、事故やケガで歯が割れるなどして神経部分が露出したときに行います。そういった場面でも歯髄を取り除かずに、歯髄を残すために行う治療を「歯髄保存療法」といいます。
「歯髄保存療法」でできること
- Point.01歯の神経を残せる
- 痛みを出すことで歯の病気を知らせたり、免疫効果のある大事な歯の神経(歯髄)を残すことができます。
- Point.02歯の寿命を延ばせる
- 歯の神経(歯髄)には歯へ栄養を届ける役割があり、神経を残すことができれば寿命も伸ばすことができます。
- Point.03抜歯を回避できる
- 神経保存療法により進行を抑えられれば、神経のある歯は折れづらく、感知センサーも残されているので、新たな感染に患者さん自身が気付きやすくなります。また、重症化しにくいため、抜歯という選択を回避することができます。
歯の神経(歯髄)を残すことが大切な理由
歯の神経の役割
歯の神経と、すぐ隣にある血管の総称を「歯髄(しずい)」と言います。歯髄は歯に栄養を届けたり、外部からの刺激を受け取るセンサーの役割があり、歯の健康を維持するための大切な組織といえます。しかし、重症化した虫歯では神経が痛みを発し、その苦痛から解放されるために、歯の神経を抜く必要があるケースも存在します。その大切な組織(歯髄)を失ってしまうと歯は外部からの刺激を感知できなくなるため、歯質自体が脆くなり、やがて折れてしまいます。つまり、「出来る限り神経を残して治療を終えること」が歯を残すためには重要なのです。また、最近では歯髄細胞からiPS細胞のような、生体のあらゆる部位に変化できる能力があることが注目されています。歯髄バンクといった神経を冷凍凍結するシステムもあります。
歯の神経(歯髄)を除去するデメリット
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歯が脆くなる
歯に栄養を届ける歯髄を失ってしまうと、歯自体は枯れ木のような状態です。
その分脆くなり、破折しやすくなるのです。 -
二次虫歯に気づかなくなる
神経の通っていない状態は痛みを感じなくなります。痛みのないことで虫歯が再発してしまった場合気づきにくくなります。
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免疫力が低下する
歯髄には病気への抵抗をする(免疫)機能も含まれています。神経を抜いてしまうと歯の病気にかかりやすくなることも想定されます。
神経(歯髄)を残す
MTA覆髄治療
MTAとは
MTA覆髄治療(歯髄保存治療)は、ケイ酸カルシウムを主成分とした「MTA」による覆髄治療です。従来の水酸化カルシウムセメントを用いた治療と比べて、再生される象牙質が緻密で感染しづらい抵抗性を有することができます。
MTA覆髄治療のポイントは、より良い覆髄材を使用することはもちろん、虫歯を取り除くための治療過程にあります。歯髄にとても近い場所の虫歯を治療するため、刺激を与えないように慎重に治療を進めることが大切です。十分な治療期間をかけて、丁寧に神経を残していきます。
MTAを用いた断髄法
通法では歯髄に感染してしまった場合は根管治療(神経を取る治療)を行うのがスタンダードでしたが、感染している部分・歯牙部分の神経だけを取り、根の神経を残すのが断髄という治療法です。
部分断髄
神経の一部分が虫歯によりやられてしまっていても、近年の研究で歯髄全てが感染していないことが分かりました。そのため、感染している部分を取り除いても、健康な神経の部分を残す治療法があります。これを「部分断髄」と言います。
従来、断髄は子どもの歯が適応とされていましたが、MTAセメントと呼ばれる材料により、成人でも適応可能になってきました。
歯頚部断髄
抜髄は神経に少しでも感染が起こればすべて除去する方法ですが、歯頚部断髄では感染が起こっている歯冠部の歯髄だけを除去します。根尖部に感染が起こっていない場合は、治癒することが可能だからです。
部分的であっても神経をできるだけ残すことは抜歯のリスク低減につながり、入れ歯などの人工歯に頼る必要性を減らします。
MTAのメリット・デメリット
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メリット
- MTAによる覆髄処置により、通常であれば神経を取るケースでも神経を残せる可能性がある
- 全ての歯髄を取り除かないことにより、歯を削る量を限りなく抑えることができる
- 歯髄を一部でも残してあげる事により、少しでも歯の中のに栄養が送り込まれ、脆くなる程度を最小限にできる
- 歯の破折や根の病気を発生しづらくなり、結果として歯の寿命が延長される
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デメリット
- 歯髄保存療法が適用できない症例もあります
- 適用できなかった場合は抜髄して根管治療を行います
- 治療終了後しばらくは染みることがあります
- 100%正確な方法ではないので、本当に歯を大切にしたい人に向けた限定された治療法である
歯を削らない
ドックベストセメント治療
ドックベストセメント治療とは
ドックベストセメントは、殺菌作用のある銅イオンと鉄イオンが配合され、さらに複数のミネラルが含まれている歯科用のセメントです。虫歯部分に塗ることで、従来の虫歯治療のように、虫歯部分を削ることなく、減菌して虫歯を治すことが可能です。
ドックベストセメント治療の流れ
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Step01
麻酔
虫歯になった歯全体に麻酔をかけます。
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Step02
洗浄
虫歯の部分を、虫歯菌と歯周病菌を滅菌する次亜塩素酸電解水で洗浄します。
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Step03
虫歯の除去
虫歯の部分を手作業で取り除き、除去します。
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Step04
薬液の塗布
ドックベストセメントの滅菌成分を歯の内部に浸透しやすくするコーパライトとドックベストセメントの粉を混ぜ合わせた薬液を塗ります。
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Step05
充填
再度、ドックベストセメントの粉末と液体を混ぜ合わせてやわらかくしたものを虫歯の部分に詰めます。
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Step06
終了
治療後に痛みなどなければ、詰め物や被せ物で修復して治療は終了です。
ドックベストセメント治療のメリット・デメリット
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メリット
- 痛みが少ない方法です
- 神経を除去するリスクを減らします
- 殺菌効果が長い利点があります
- 天然由来なので副作用がありません
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デメリット
- 治療後にセルフケアを怠ると、別の歯で虫歯が発生することもあります
- 抜髄を避けられない症例もあります
- 通常の治療よりは少ないですが、治療後しばらくしみる場合があります
- 最終的な被せ物は、十分閉鎖されるものを選択しないと再感染する恐れがあります
- 公的医療保険が適用されない自由診療であります
よくある質問
- 歯髄(神経)を守る意味はなんですか?
- 歯髄は、いわゆる「歯の神経」といわれ、歯の内部にあります。
神経だけがあるのではなく、大量の毛細血管が存在し、歯を健康に保つための様々な機能があります。 - 弱った歯髄(神経)でも治療すると治りますか?
- 歯髄は、他の臓器と同様に、ダメージを受けると弱くなります。
ダメージの度合により強い痛みを出したり、痛みもなくひっそりと死んでしまうこともあります。ダメージの少ない歯髄であれば、虫歯を取ればまた元気に戻って正常な機能を取り戻すこともあります。
しかし、長い期間、虫歯菌にさらされていた歯髄は、虫歯を取っても徐々に弱って死んでしまうことがあります。 - 歯髄保存治療後は歯が染みたりしますか?
- 歯髄保存治療は、虫歯を深く削り、歯髄を守るためにお薬やセメントをおいたり、治療による熱が加わったり歯髄にとてもストレスがかかります。
痛みの程度によりですが、いつもよりもすこし染みる、ちょっと違和感があるくらいでは全く問題ありません。